自分のお店を開きたい人にとって、心配なものの1つが開業資金なのではないでしょうか。
起業の前提条件として、小さくはじめることをおすすめします。
小さくはじめるとは、できるだけ費用を抑えて開業すること。
投資する金額が少ないほど、失敗したときや方向転換したいときのダメージが小さくなります。
そうはいっても、お店をはじめるにはある程度まとまった資金が必要です。
開業に必要なお金は、業態や規模によっても異なりますが、参考までにふぁくとりーNolleyのオープンにかかった大体の金額を公開します。
厨房施設
レストランやカフェ、パン屋さんなどの飲食店を開くには食品衛生法の基準に合った施設が必要です。
自宅で開業する場合にも、キッチンは自宅と兼用できません。 もう1セット別に造ることが必須となります。
施設を造るときは、事前に厨房の見取り図を作って保健所に相談します。
流しや手洗い場の位置と数、採光などの要件を満たしているかチェックするためです。
ふぁくとりーNolleyの厨房施設は、みかん倉庫の軒下の3畳ほどのスペースに作りました。
3畳ほどのスペースですが、建設費だけで230万円ほどかかりました。
設備
設備の中で一番お金がかかったのは、オーブンです。
業務用オーブンは1台数十万円するのは当たり前。ただし、ふぁくとりーNolleyは1人で運営すること、毎日稼働するわけではないので業務用オーブンである必要はないと考えました。
そして選んだのは、ドイツの電気メーカーAEGのオーブン。
家庭用オーブンの容量は30L前後ですが、私が買ったAEGのオーブンは70Lくらいありました。
ちょうど業務用オーブンと家庭用オーブンの中間くらいの大きさです。
天草に都市ガスは通っていません。ランニングコストが高いプロパンガスではなく、電気なのもよいと思いました。
オーブンはガスがいいという意見もありますが、200Vなら予熱時間も短くて、焼き上がりも遜色ありません。
日本ではAEGは、料理教室の先生で使っている人も多いと聞いたので、私の使い方に合っていると思いました。
それでもオーブンと鉄板など周辺のアクセサリーも含めて、費用は40万円ほどかかりました。
そのほか、台下冷蔵庫や、粉の保存庫、冷凍ストッカー、エアコン、棚や作業台、流しなど必要な備品を合わせて70〜80万円ほどかかったと思います。
販売場所
お店をするときには、製造場所の整備と同時に、販売場所をどうするかも大切なポイントです。
自宅は天草の中でも農村部にあって、一見のお客さんがふらっと立ち寄れるようなところではありません。
通販で売れるようになるにも、ある程度の時間がかかります。
そのため、外に売りに行かなければならない、と考えました。
ただし、お店を借りるとなると、敷金、礼金、賃料の負担が大きくなります。
お店の内装もいじるとその分投資額が大きくなりますし、将来、場所を移したいと思ったときや、撤退することになったときに大きな足かせとなります。
そのため、ふぁくとりーNolleyは軽ワゴン車を改造して店舗にすることにしました。
中古の軽ワゴン車なら100万円以下で買えますし、必要なくなったら売ることもできるからです。
移動販売というと、行商人のように売り歩くイメージですがふぁくとりーNolleyは曜日、時間、場所を固定して営業することにしました。
たとえるなら、マルシェのようなイメージでしょうか。出店場所は、保険の営業時代に知り合ったお店をしている方に相談して、そのお店の駐車場の一画を借りることができました。
開業にかかった費用は工事費や設備だけで約400万円。
オーブンや冷蔵庫などの電化製品は新品、棚や作業台などは一部中古のものも活用しました。
タイミングが合えば業務用のリサイクルショップで、掘り出しものに出会えるかもしれません。
私の場合は開業時期を先に決めていたので、リサイクルショップに行ったときになかったものは新品を買ってしまいました。
道具がそろい次第開業するなど、時間的に余裕がある場合には、もう少し費用を抑えられるかもしれません。
それでも、ふぁくとりーNolleyの開業費用は少ない方だと思います。
実店舗・固定店舗型の販売スタイルをとる場合は、もっと費用がかかることも覚悟しておかなければならないでしょう。
そのほか試作品作りに必要な材料費、消耗品代、仕入れ費用、運転資金なども考えると、最低でも500万円ほど用意しておくと安心だと思います。
開業資金の準備方法
開業資金を準備するには、主に次の4つが考えられます。
- 自己資金
- 金融機関からの借り入れ
- 自治体の起業創業者向け補助金
- クラウドファンディング
私はこれらすべてを活用しました。
自己資金とは、これまでの蓄えのこと。
貯金だけでなく、運用で得た資産など自己資金の準備方法も人によってさまざまでしょう。
自己資金があるなら、全額自己資金でカバーすればいいという考え方があります。
実際、借り入れなしで自己資金だけで開業するパン屋さんも多いようですが、私はその方法は取りませんでした。
その理由はズバリ、先行きが分からなかったからです。
もちろん、事業計画は作りました。うまくいけば何も問題ありません。
しかし、計画はあくまでも計画。手元の資金がなくなってしまったときに、万が一コケたらどうなるでしょうか?
きっと、生活すら難しくなってしまいます。
我が家には小さな子どももいますので、そんなことは絶対に避けなければなりません。
そのため、私はできるだけ手元の資金を使わずに開業する方法を考えました。
少額の借り入れなら日本政策金融公庫がおすすめ
金融機関には、一般の銀行、信用金庫もありますが、これから起業しようという人で、少額の借り入れを予定している人におすすめなのは、日本政策金融公庫です。
日本政策金融公庫とは、政府系金融機関の1つ。
政府系金融機関なので、民間の金融機関より金利が安いこと、女性の起業を応援する制度があることから、私は日本政策金公庫から借りることを決めていました。
民間の金融機関は検討さえしていません。 審査用の書類は、必ずしも指定のものでなくてもよいようです。
私は天草市の起業創業補助金も同時に利用することを考えていましたので、起業創業補助金用の書類をそのまま使いました。
審査の結果、よい条件で融資を受けることができました。
日本政策金融公庫からの借り入れを検討する人は、まずは最寄りの支店に電話して手続きや面談方法について問い合わせてみてください。
自治体の補助金を利用するときは商工会議所に相談しよう
住んでいる自治体に補助金があるかどうかは、自治体のホームページで調べられます。
もし分からなければ、直接役所に行って相談してみてください。
多くの自治体には、これから起業創業しようとする人をサポートするための補助金制度があると思います。
ただし、補助金は自己資金で開業する場合は受け取れません。
自治体によってルールが異なるかもしれませんが、基本的には金融機関で一定額以上の借り入れが求められていると思います。
一度、住んでいる自治体の制度を確認してみましょう。
金融機関や行政に提出する書類の書き方が分からない場合に、心強い存在となってくれるのは商工会議所。
親身になって相談にのってくれます。
天草市の場合は、補助金を受けられる条件の中に、商工会議所を利用することとなっていたので、利用しないという選択肢はありませんでした。
受け取ってみて分かった補助金の問題点
天草市の起業創業補助金は、経費の最大3分の2までもらえることになっています。
仮に500万円の経費がかかったら「300万円ももらえる!」と思うかもしれません。
しかし、それは大きな勘違い。補助金算定対象となるものには、細かな要件が決められていて「そのほかの目的に流用できる」車やパソコンは対象外です。
1つあたり10万円以下の設備や備品は、補助対象にならなかった記憶があります。
申請する段階で、カタログなど品物の金額やスペックが分かるものも添付しなければなりません。
発注日も重要なポイントです。
補助対象となるのは、「交付決定日以降」に発注した工事や品物。
先に買っておくができないので、実際にはいつでも手に入れられる新品でないと難しいでしょう。
また、これから起業創業しようとする人に対して「雇用」まで求めているのが気になりました。
補助金の金額は事業内容のプレゼンによる審査員のポイント制で決まるのですが、交付決定後に、雇用と地域への波及効果にかなりの傾斜配点されていることが分かりました。
ふぁくとりーNolleyは、人の雇用はしていないのでその部分のポイントは低かったです。
私が感じた問題の1つは、事前にカタログの添付を求めることや、交付決定後の発注でないと経費として認めないという制度設計には、努力をして費用を抑えるインセンティブが働きにくいという点です。
起業する人から見ても、税金の適切な使いみちという点から見ても、初期費用はできるだけ抑えた方がよいはずです。
しかし、現行の制度では、5万円のものを買った場合には補助なしなのに、10万円のものを買ったら6万円の補助が出るという内容になっています。
補助金をもらう側からすれば、後者の方がいいですよね。
補助対象となる経費のトータル額ではなく、1つ1つの品物の金額を基準に管理するというやり方では、必ず無駄遣いが発生します。
2つ目の問題点は、評価基準の雇用の配分が大きすぎるという点です。
起業というのは不確定要素の大きい、チャレンジです。
始める前には売れるかどうか、自分の生活がどうなるかも見通せない。
そんな中、他人の雇用を約束することなどできるでしょうか。
仕事のバリエーションの少ない地方で雇用を作るという考え方は一定度理解するものの、これから起業する人に求める評価基準として適切なのかは大きな疑問です。
無事、交付決定を勝ち取ることはできましたが、後味の悪さが残りました。
もらえないよりはマシかもしれませんが、「あれはダメ、これもダメ」という態度では、起業創業や産業の振興は難しいでしょう。
抜本的な制度の見直しが必要なのでは?と思いました。
もしあなたが補助金の活用を考えるなら、上記の問題点を理解した上で、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。