これまで、開業資金の準備方法として金融機関からの借り入れと、補助金の話をしてきました。
最後はクラウドファンディングについてです。
ふぁくとりーNolleyのは、オープンの際に朝日新聞のクラウドファンディングA-portを利用しました。
多くの方の協力を得て、目標額に対して120%超の結果となりました。
しかし、結論から言えば、クラウドファンディングは資金調達の方法としては不適切です。 その理由と、クラウドファンディングの活用法についてお伝えします。
「寄付型」か「購入型」か。目標未達成時の取り扱いを決める
まずは、クラウドファンディングのタイプを決めましょう。
クラウドファンディングには、寄付型や購入型などのタイプがあります。
クラウドファンディングは寄付と思っている人がいますが、実際には購入型が大半ではないでしょうか。
購入型というのは、応援してくれた人に相応のリターンを送るタイプのものです。
大きな災害や文化財の再建には寄付型も有効ですが、知名度のない企業や個人がクラウドファンディングを活用する場合、よほどユニークで魅力的な内容でない限り、寄付型は難しいのではないかと私は思っています。
なぜなら、西洋諸国とは異なり、日本では寄付文化が浸透していないからです。
次に、目標額を達成した場合にのみファンディングされるタイプ(以下、All or Nothing)にするのか、未達成でもその時点で集まっている金額がファンディングされるタイプ(以下、実行確約型)のどちらかを選びます。
誰が得する?クラウドファンディングの仕組みを考える
なぜクラウドファンディングが資金調達の方法として不向きなのか。
クラウドファンディングの仕組みを考えてみましょう。 クラウドファンディングで一番儲かるのは誰でしょうか?
私は、間に入っている仲介業者だと思います。
A-portの場合、目標金額を達成すればAll or Nothingでも実行確約型のどちらも手数料は20%でした。
しかし、実行確約型は募集開始後に目標金額を達成できなかった場合は、手数料が25%となる点に注意が必要です。
すでに開業を決めていた私は、実行確約型を選んでいます。
しかし、私には25%という手数料割合は適切だと思えませんでした。
プロジェクトを立ち上げて、回していくのも、支援者を募るのも、そして目標が達成できなかったときのリスクを負うのも発起人だからです。
支援者を募るのは、発起人なんです。自作自演ともいえます。これについては、後述したいと思います。
成功する見込みの高いプロジェクトを選んで支援し、失敗しても自分の腹が痛まない仲介業者が、場所代として最大4分の1もの手数料を受け取るのは適切でしょうか。
なお、これは特定のサービスに限った話ではなく、クラウドファンディング全体に共通していえることです。
目標未達成の上に、手数料アップだけはなんとしてでも避けたい。
そう考えた私は「何が何でも達成する」という決心を持って取り組みました。
いくらか支援してもらえるだけよいのでは?という考え方もありますが、きちんと計算しないとまったく手元に残りません。知名度のない企業や個人が購入型でクラウドファンディングを募る場合は、それなりの返礼品(リターン)を設定しないと支援者を集めにくいことが大きな原因です。
返礼品のタイプが形のないサービスや、モノであってもすべて自分のところで準備できる人ならよいですが、仕入れがあるところは大変です。
さらに返礼品を送るときには、送料もかかります。
事前にしっかりと設計しておかなかったために、かえって赤字が出てしまったという話もあります。
このような理由から、購入型クラウドファンディングは資金調達の手段としては不向きです。
実際、支援を依頼した友人の中には「クラウドファンディングなんて利用しないで、直接寄付を募ればいいんじゃない?」とアドバイスしてくれた人もいました。 それでも私がクラウドファンディングにこだわったのには次のような理由がありました。
- 知人友人以外の人にも存在を知ってもらう広告宣伝効果を期待した
- 立ち上げ当初の売上に不安があったので、前売券効果を期待した
購入型クラウドファンディングは資金調達の手段としてはよい方法とはいえないものの、私のように、新商品の売れ行きをテストしたい人、開業したばかりなどで、事前に一定の売上を作りたい人にとっては有効な方法だと思います。
どのサービスを利用する? クラウドファンディング成功に欠かせない媒体選び
数あるクラウドファンディングサービスの中で、どのサービスを選ぶのがいいのか。
初めての人にとっては悩ましいですよね。 私がサービスを検討するときに重視したのは次のポイントです。
- サービスの知名度
- プロジェクトの達成率
- メディア露出などのプラスαのメリットの有無
実際に利用したのは、朝日新聞のA-portです。
クラウドファンディングサービスの中では後発組のA-portですが、結果として朝日新聞にしてよかったと思います。
私はA-portとサイバーエージェントのMakuake(マクアケ)の両方に審査をお願いしていました。
「クラウドファンディングは誰でもカンタンに支援を募れる」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
仲介業者にしても、実現可能性の低い案件はできるだけ避けたいという考えがありますので、プロジェクトには審査があります。
保険をかけて2社に審査をお願いしたところ、無事、ともに一次審査を通過。
そこで、朝日新聞にお願いすることにしました。
社会的な意味づけのあるふぁくとりーNolleyには、物販的な要素が強いMakuakeではなく朝日新聞の方がマッチするのでは、と思ったからです。
A-portは、朝日新聞などの紙媒体にも強力なネットワークを持っていることも大きな魅力でした。
実際に、ふぁくとりーNolleyはクラウドファンディング期間中に、朝日新聞熊本版とハフィントンポスト日本版で紹介いただきました。それがきっかけで、地元紙や読売新聞、地元テレビ局の取材にもつながっています。
もう1つ、募集を開始してから、A-portにはプレスリリース会社とのタイアップ企画があることが分かりました。
内容は、目標額を設定したプロジェクト起案者には、プロジェクト成功後3年間、無料でプレスリリース配信できる権利がもらえるというもの。 プレスリリースには1件あたり数万円の出稿料がかかります。
私が権利を獲得した媒体は、1件3万円なので、毎月1件ずつプレスリリースするなら年間36万円、計108万円の広告費がもらえることと同じ計算です。
これが、私のやる気をかきたてました。ただし、2020年4月現在、この企画は終了しているようです。
クラウドファンディングは、知名度や取扱い件数に目が行きがちですが、もし利用するときには、プロジェクトとの相性やプラスαのメリットも見てみることをおすすめします。
クラウドファンディング成功のカギは"初動"
多くの人の支援を募れる、クラウドファンディング。その点に魅力を感じる人は多いでしょう。
しかし、無名の企業や個人がクラウドファンディングを成功に導くには、いかに自分の知り合いを巻き込めるかがカギになります。
Makuakeの担当者に言われたのは「クラウドファンディングで大事なのは初動」ということです。
最初の1〜2週間で一定の支援額を集めることができれば、おすすめのプロジェクトに上位表示されるようになり、他メディアへの紹介も可能性があるということでした。
クラウドファンディングを開始して間もない段階で支援してくれる人とは、どんな人でしょうか。
もちろん、知人や友人ですよね。
よほど運のよい人でない限り「たくさんの人が応援してくれるといいなぁ」と、ぼんやり思っているだけで成功する可能性は高くありません。
そこで必要になるのが、これまでに関わった方たち、応援してくれるだろうと思われる方たちのリストアップ。
私だけでなく夫にもお願いして、学生時代の友人や以前の職場の同期や上司などに、電話やメッセージを通じて支援をお願いしました。
Facebookでも拡散していただきました。
その甲斐あって、なんとか短期間で一程度の支援を集めることができ、その後のメディア露出や、目標達成にもつなげることができました。 無名の企業や個人が“自然”に支援を集めるのはとても難しいもの。いわば、クラウドファンディングは自作自演の賜物なのです。
クラウドファンディングの思わぬ副効果
クラウドファンディングをやってよかったと思うのは、新しい知り合いができると同時に、人間関係の整理ができたことだと思います。
「本当に大切にするべき人は、困っているときに助けてくれる人」という意味の言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
実際、それは当たっていると思います。
私のクラウドファンディングが「本当に困ったとき」といえるかは疑問ですが、メッセージや電話をして何のリアクションもなかった人というのは、やはり長い付き合いができる人ではなかった、ということなのでしょう。
それまでの私は、ほとんどの物事は自分で成し遂げられると感じていました。
しかし、クラウドファンディングは自分ひとりの力では達成が難しいものです。
この出来事を通じて、自分は多くの方の支えがあって生きてきた、ということがよく分かりました。
私は義理を大切にするタイプです。
してもらったことはいつまでも覚えていますので、もし支援してくれた方が、今後何らかの助けを必要とすることがあれば、できる範囲で最大限サポートさせていただきたいと考えています。