「奥さんは何をしているの?」
天草に越してきて、何度となく近所の人から夫が言われている言葉です。
我が家の場合、夫は柑橘農家ですが、みかんの収穫体験と農家民宿も運営しています。
私はwebライターのかたわら、ベーグル店の運営と農家民宿の手伝いをしています。
私がみかんの手伝いをするのは、収穫期のほんのいっときだけです。
我が家の収入源は5つ。
さらにそれぞれの中で、タイプの異なる取引先を組み入れています。
たとえば、柑橘類の販売先ならJAだけでなく、プロ向け食材の業者、個別のレストランやお菓子屋さん、個人といった具合です。
仮に1つがなくなっても、家全体で収入ゼロにならない仕組みにしています。
昔ながらの農家のスタイルといえば、夫婦とその両親、場合によっては祖父母も登場する家族総出が基本でしょう。
野菜や果物を作るだけなら、たしかにその方が効率はよいと言えます。
なぜなら、家族で仕事をすれば、外の人に手伝ってもらう必要がなく、お金が外に出ていくことがないからです。
■「ブランドづくりで高く売る」の問題点
生のままでは大きな売上になりにくい一次産品。
それだけで、生活できるだけの収入を得ようとすれば、たくさん売るしかありません。
「栽培方法にこだわるなどして、ブランド品を作って高く売る」という考えもありますが、高く売るためにコスト高になってしまっては元も子もないでしょう
たとえば、栽培方法の中には、冬に温室でボイラーをたいて他の産地より早く出荷するというものがあります。ただ、この方法をとると燃料費がバカになりません。寒い冬に室内を作物が育つ適切な温度まで上げるには、たくさんのエネルギーを必要とするからです。
今年は新型コロナウイルスの影響で、例年なら高く売れるブランド果物の不振が続き、いつもの半値以下になっているといいます。
高く売るためには、それ相応の手間やコストは必須ですが、それらは先に出ていくもの。
それ1本で生活している農家は、今年、大変な状況になっているでしょう。
もう1つの問題点は、普通の野菜や果物の何倍もする品物を買える人は、それほど多くないことです。
仮に、そういう人がいたとしてもブランド野菜やブランド果物は、日常的にリピートする品物ではありません。
利用するのはせいぜい、お中元やお歳暮などの節目や、お祝いのときだけではないでしょうか?
そのため、ビジネスでは必要以上に安くする必要はないものの、できるだけ多くの人の手に届く価格設定にするのが基本です。
しかし、薄利多売できるのは、大規模な設備を導入し、徹底して作業を効率化した大手企業の特権とも言えます。
個人事業主やフリーランスがそれを真似しようとしても、大きな設備投資ができるお金がありませんし、そもそも、それをさばけるだけのマンパワーがありません。
設備投資したら、借金を返済するためにたくさん売らなければならないという悪循環が待っています。
そのため、個人事業主・フリーランスにとっては、一度に大量に出荷できるJAを利用するか、外の人に手伝いをお願いするかのいずれかが現実的な選択肢です。
会社の給料は、固定給のほか、通勤費、手当、そして振込日などの各種条件があらかじめ提示されていますよね。一次産品以外のビジネスも、基本的にそうだと思います。
JAは一度に大量の野菜や果物を出荷できるのがメリットですが、最終的にいくらの売上になったか、そして振込日が分かるのは振り込まれてからのこと。
価格は市場の需給関係によって大きく左右されますから、振り込まれてから「今年は思ったより高く売れたなー」とか「去年より、安いな」などとやっているのです。
ものがなければ売上にもならないわけですが、いくらになるか分からない状態で外の人に手伝いをお願いするのは、とてもリスクが高いですよね。
■夫婦で同じ仕事をするリスク
その点、支払いを最小限にできる家族総出のスタイルは有利です。
しかし、家族総出の問題点は変化に弱いこと。
気候や価格の変動による大幅な収入減へのリスクヘッジができません。
最悪の場合、今年は去年の売上の半分、もしかしたらそれ以下なんてこともありえます。
そのため、夫のみかん農園は一人で作業できる最大限までとしています。
私たちが夫婦で別のことをしているのは複数の収入源と、複数の取引先を持つことでリスクヘッジをするためです。
複数の収入源や取引先を持つと、1つ1つは大きな金額にはなりませんが、束ねればそれなりの金額になります。
私がその考え方を取り入れようと思ったのは、『月3万円ビジネス』という本を読んだことがきっかけでした。
この本を読んだとき、私はまだ国家公務員をしていましたが、「1つ1つは少額でも、複数並行すればそれなりの収入になる」という発想は、当時の私にとって目からウロコでした。
いつか自分でビジネスをすることになったら、この考え方を取り入れようと思いました。
ライターの仕事をはじめた1年目は取引先が分散できていなかったので、精神的にも金銭的にも消耗することになりました。これについては、後述します。
最近目にするようになった、パラレルワークの考え方も一部これに通じるところがあると思います。
1つのことだけをしていて安心な時代は終わりました。
人生100年・先行き不透明なときがやってくるからこそ、変化に対応できる体制づくりが必要なのです。